角田博明著「未来を拓く宇宙展開構造物−伸ばす、広げる、膨らませる−」コロナ社(2015年7月3日刊行)


2015 年6月中旬にコロナ社より新コロナシリーズ61として、「未来を拓く宇宙展開構造物−伸ばす、広げる、膨らませる−」(1,200円+消費税) が出版されます。書店では理工学関係の専門書の棚に並ぶと思います。技術が使われる背景や未来の展望まで幅広い話題に触れていますので、高校生から大学初年次生をはじめ、広く一般の方々にも楽しんでいただけるのではと思います。是非お読みいただき、ご感想やご意見などをいただけると幸いです。

 

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本書の特徴

  • 未来の重要な宇宙インフラである宇宙展開構造物について、背景や必要性から応用例、基盤となる技術についてわかりやすく説明しました。
  • 背景や必要性には、他の宇宙利用技術にも共通するところが多数あるので、宇宙工学や宇宙科学の各分野を学ぶ方にとっても役に立ちます。
  • 難しく複雑だと思われがちな宇宙利用技術について、身近な題材を例に取り上げ、直感的な理解がし易いように工夫しました。
  • 一層の直感的なひらめきが生まれ易いように、気分転換の意味も込めて、技術とは一見無関係に思える話題をところどころに入れました。
  • 気分転換しながら読んでいただくと、学びの場はもちろん仕事や日常生活にも役立てていただけます。
  • 学生をはじめ一般の方、エンジニアを目指す方など、ご自身の学びや仕事のやり方を少し見直してみたいと思う方にとって、多くのヒントが得られます。
  • 学生の方々からヒントやご協力をいただいたり、私が撮影した写真を使ったコラムも5つ収録してあります。

執筆を振り返って

昨年の夏から執筆を続けてきた書籍が、コロナ社から6月中旬に出版されます。原稿自体は昨年の秋にほぼ完成させ、そのあと出版社との調整や推敲をかさねて最後の校正が終わったのが今年の3月でした。私としては、早くもなく遅くもなくちょうど良いペースで進行できたと思っています。あまり時間をかけすぎると、自分で書いたことでも記憶が薄くなってきて、読み直しながら書き進める部分が多くなり、能率が非常に低下します。大学の授業期間中は執筆に割ける時間が限られており、今回はちょうど夏と冬の授業がない時期に集中できたので好都合でした。

出版社のコロナ社は、歴史がある有名な理工系の専門出版社です。大学生の時には教科書でずいぶんお世話になりました。今でも大切に持っている擦り切れた材料力学の教科書がこの出版社の本です。そのような出版社から出版させていただけるということを、非常に光栄に思っています。

いくつか、執筆中の裏話をお披露目します。

今の時代、原稿用紙に書くのではなくパソコンで打ち込んでいきます。今回は「読み物」ということで縦書きの本なのですが、原稿は横書で入力しました。数式は入れませんでしたが、数値や単位、英語表記はでてきます。これらが最終的にどのように表示されるのかイメージできないまま執筆をしていました。どうなるのかと思ったら、最終的には校正段階でうまく調整をしていただきました。

原稿の入力では、使い慣れたMacでソフトはAppleのPagesを使いました。キーボードもAppleの純正キーボードですが、これは最高のキーボードだと思います。感触やストローク、キー間隔など、ほぼパーフェクトではないかと気にいっています。23インチのモニタに横幅いっぱいに表示させると、文字の幅は1cmほどになります。歳とともに目が弱くなってきたのですが、これだけ大きくすれば楽勝モードです。美しいヒラギノ明朝体の日本語フォントで、気持ちよく作業ができました。こうして環境を整えることを、私は非常に重視しています。なるべく脳のストレスを減らして、そこでやる作業に集中することは、質を高めることにつながります。もっとも、実際にそうなっているかどうかは別問題で、自分を言い訳ができない環境に追い込んでいるというのが実情でしょう。こうして入力した原稿は指定のファイル形式に変換して電子データの形で出版社に渡します。したがって、執筆時にどのようなフォントを使ったかなどは、当然ながら最終的な本の体裁には一切関係ありません。しかし、本の内容には見えない形で反映されています。単なる道具でも侮れないものです。

写真は一部転載をさせていただきましたが、図は全て自分で書きました。これも高級な図面作成ソフトでなく、使い慣れたAppleのプレゼンテーション用ソフトKeynoteを描画ソフトとして代用しました。シンプルな平面図程度なら最速で作れてしまいます。文章がメインで図は理解を助ける程度という位置づけだったので、複雑な作図には不向きなプレゼンテーション用ソフトのほうが、このような場合には意外にも使えると思いました。

自分で撮った写真もいくつか使いました。中にはかなり古いものもあります。コラムで使ったセミの羽化のシーンは10年以上前のものです。その後でいくらでも撮影する機会はあったのですが、深夜のしかも長時間にわたる撮影になるので、新しい写真はありませんでした。この時は、公園でつかまえたアブラゼミの幼虫を家に持ち帰り、木の枝の先にとまらせて羽化する一部始終を300万画素程度のデジタルカメラで撮影しました。今ならもっと手軽に高画質で撮ることができますが、当時のこの程度の画素数のカメラでも無理のない設計のレンズのおかげで良好な写真が得られていました。セミの羽化は、これから夏になると身近なところで見ることができます。ただし、決して手を触れないであげてください。羽化に失敗してしまいます。セミに任せておけば、翌朝には羽も乾き自分で飛び立っていきます。こういうのを見ていると昆虫に愛着が湧いてくるので、観察を是非お勧めいたします。

気分転換は、もちろん大好きなグレン・グールドのバッハです。この演奏家のピアノ演奏を聴くと、インスピレーションがわいてきます。30年以上前に亡くなったカナダのピアニストですが、感謝の意味も込めて、グールドには本の中で少し登場してもらいました。


(2015年5月31日)